2012年9月7日金曜日

横浜ハーバーシティ・スタディーズ2012感想

昨日、横浜ハーバーシティ・スタディーズ2012でゲストレクチャーと、講評を担当させていただきました。
http://www.yhcs2012.com/

「都市の書き替えと横浜の新しい「構え」」が全体テーマで、建築/都市計画系の学生と、社会科学系の学生が4つのチームに別れて、6日にわたってフィールドワークや調査、提案を行うという企画です。社会学者の南後由和さんと建築学者の門脇耕三さんという明治大学のお二人がディレクターを担当していらっしゃいます。ただ社会科学と建築が出会うというだけではなく、そこにインフォグラフィックスという可視化技法の習得と活用を導入することで、斬新な提案の創出を企図していらっしゃいました。

訪れてみると、学生たちがとある一室に集まって、大量のデータや収集してきた写真を眺めて議論していました。凄まじい熱気でした。

ぼくは、「『新しい公共』の広がりと課題」というテーマをいただいていたので、社会変動としての新しい公共と、政策としての新しい公共の概要を駆け足ながらかいつまんで説明しつつ、それらが必要とされる背景であるところの、公共サービスの供給主体が国や地方自治体などに限られ、かつ、均質的なサービスにとどまり、かつ供給側にも既得権益化が生じているような、特殊日本的な「硬直化した公共サービス」の打破に建築は何ができるか?ということを考えてほしい、とリクエストさせていただきました。

その後提案フェーズに移って、彼らの現在までの進捗プレゼンにコメントしていく側に。横浜、関内、みなとみらい、伊勢佐木町あたりを4分割し、4つのチームがそれぞれのエリアを担当するという形でした。どのチームも、調査は斬新な視点を採用していてとても興味深いものばかりでした。ただ提案になると、ありがちな「カフェ」や「ミュージアム」といった建築にありがちなものに「逃げている」ものがあったので、その点は突っ込ませていただきました。もし建築の強みが論理や客観性に関心を持つ社会科学と対照的に徹底的に主観的であることにあるのだとすれば、リサーチだけではなくやはり提案も土地の固有性と提案者の固有性を徹底的に活かすべきだろう、と。時間は大幅超過でしたが、とても知的刺激に満ちた時間であり、空間でした。

思えば建築と社会科学は、ともに都市や地方、公共(空間)という主題を扱いながら、ともに議論し共同研究する機会は多くはありません。今回改めてその重要性を思いました。加えて「リサーチ」という時の、微妙なニュアンスの差にも。社会科学がリサーチクエスチョンと仮説に基づいて、それらに適宜修正を加えながらも論理を重視してリサーチするのだとすれば、建築/都市計画のリサーチは対照と、調査者の主観を活用して「意味」を読み取っているように思えます。Aという対象から、調査者を介して、A'を読み取り、さらにA''・・・と展開していくとでもいえばいいのでしょうか。同じ対象を前にしても、見出すものが全く違う。両者が共同研究をしない理由はないといっても過言ではないのではないでしょうか(笑)その意味において、門脇さんと南後さんの試みはとても意味があるものだといえると思います。

あと建築の問題なのか、今回集まった学生たちの関心の問題なのかはわからず、なおかつ我田引水で恐縮なのですが、「公共」に対する意識/関心は弱いのかな、という印象を持ちました。しかしよく考えて見れば、縮退都市にせよ、リノベーションや過疎の問題にせよ、広義には公共の再構築と刷新が問われているとってよいでしょう。このような問題系に対して、建築の人たちがどのような「解」を提案するのだろうということは個人的にますます強い関心事項になってきました。制度変更でしか変えられない要素(たとえば正統性の付与や、参入規制の撤廃等)もあれば、逆に建築によって制度変更を待たずに問題解決できる要素もあるのではないか、と。

今回はゲストとして呼んでいただきましたが、ぼく自身も大変刺激を受けました。現在進行形でいくつかの地域振興の企画にかかわっていることもあって、視野が広がりました。おそらくあのような場と企画をデザインするために、門脇さん、南後さんには大量のロジと準備、ご苦労があったこととお察しいたします。お声がけいただいたことに感謝しつつ、一端筆を置くことにしたいと思います。