2015年7月28日火曜日

IPOの件数増と「スタートアップ・ブーム」

 経済誌をめくれば、スタートアップ企業と起業家特集が喧しい。スマートフォンを開けば、ニュースアプリがスタータップと起業家がいかにイノベーティブな存在かを強調している。いや、ソーシャルメディアでは、当事者からそのビジョンが提示される。国も産業政策として、起業を促進している。

 IPOの件数に目を向けてみよう。一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンターの『ベンチャー白書 2014』は、過去5年間のIPO件数を2014年が77件、2013年が54件、2012年が46件、2011年が36件、2010年が22件と3倍以上になったことを指摘する。これはやはり、日本でもいよいよ本格的なスタートアップ・ブームが訪れたということなのだろうか。

 データも含めて注意深く見る必要がある。業界に長くコミットしている人はよく知っているが、IPO件数を10年期間で見ると、改善傾向にはあるものの、激増しているとは到底いえない。というのも、IPO件数の直近の底が、2009年にあるからだ。2009年といえば、前年の米大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻に伴う世界的な不景気の影響下にあった年である。いわゆる「リーマン・ショック」である。

 2009の年のIPO19件。確かに底を脱してはいるものの、過去最高の盛り上がりを見せているとまではいえない。2006年のIPO件数は188件、2005年が158件、2004年が175件である。直近のピークは、ITバブル崩壊直前の2000年の203件である。当時はホームページ作成や「高速」インターネットサービスを営業、販売する業態の起業が盛り上がりを見せていた。

 当時の時代の寵児たちも、著書やメディアを通して「スタートアップの時代」である旨を公言していた。IT系の起業家たちが頻繁にメディアに登場しはじめたのもこの時期である。2001年から2004年まで続いた『マネーの虎』など、起業家にフォーカスした番組もあった。プロ野球球団や放送局の買収を巡って、騒動になったりもした。

 現在の状況とよく似ているとはいえまいか。スマートフォン向けアプリの開発と、かつてのホームページ制作業はある意味ではよく似ている。確かに小規模で、早い意思決定のもと、新しいメディアにコンテンツを作る・・・

 また、やはり一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンターの手による『平成25年度創業・起業支援事業 (起業家精神と成長ベンチャーに関する国際調査) 「起業家精神に関する調査」報告書』がある。この調査は、GEMGlobal Entrepreneurship Monitor)調査という起業家精神に関する国際比較調査の一環として実施されている。起業活動率という指標があるが、この調査では実態を公開している67の国・地域のなかで下から2位である。そして、この傾向は一向に変わらない。

 金融緩和の金余りの傾向のなかで、投資先を探す声もよく聞く。投資側には投資側の、投資すべき予算のノルマがある。そのうち一体何社が、ビジネスとして将来像を描けるだろうか。起業家にとっては事業がうまく行かなければピポットするなり、新しい事業を立ち上げるなりすればよいのかもしれない。だが、投資家、とくに個人投資家にとっては、看過できない問題である。


 IPOの件数も、各社の営業資料では、2010年という数字や「過去5年分」という意味でもキリが良いからか、数字が良いからか、2010年以後の右肩上がりになったものをよく目にする。技術、資金の流入は激変するが、社会や商習慣の変化は圧倒的に遅い。経路依存性も強い。リスクテイキングには精査が必要であるという常識は、今も昔も変わらないままだ。